2014年3月アーカイブ

野菜指定産地制度と連作障害ー。

その矛盾を埋めるために、農薬が多投されて、消費者、そして生産者の体までが、残留農薬の危険にさらされていくのである。

自然の植物である野菜を、遠隔地から一定量、工業製品のように消費地に供給しようとすればするほど、こうした問題が起きてしまう。

生産地、それに対する消費地。

分業の世の中ではあるが、偏った地域格差が、ある意味では農薬多投農業を助長しているのだ。

「だめなんですよ。

指定以外の作物はつくれないんです。

いまの農水省のトップの方がたは、農家出身の人がほとんどいなくなりましたからね。

現場の話をしても馬の耳に念仏です」

栽培担当者は、顔をゆがめて言う。

「言っても通じんのです。

中央の会議などに行ったとき、話していてわかりますよ。

あの方がたは、トマトの実はよく知っています。

でも、トマトのつるは、一度も見たことがない人ばかりです」

野菜指定産地制度による連作障害のせいも多々ある。

土の中の病原微生物を退治しなければ、連作障害がどんどん増幅してくる。

そこで土を消毒するために殺菌剤などの農薬を多投する。

その結果、病原微生物は減ったが、こんどは土の成分バランスが、次第に崩れてきてしまう。

悪循環なのだ。

それなら、こうした制度を、もっと弾力的に運用すればいいのではないか。

そうすれば農薬に頼らなくとも障害を回避できるだろう。

毎年、同じ畑で同じ作物を栽培していくと、土の中に特定の病原微生物が増えてしまうために病害虫が多発するようになってしまう。

そのため連作障害の激しいサトイモなどは、三年つづけて栽培すると、収穫量が半分ほどに低下することがある。

「つくるのをやめちゃえば、障害は解決するんですけどね。

社会的な要因があって、そう簡単には解決しないんです」

と、栽培指導担当者はうなだれて言う。

「いまの畑は、長年の化学肥料の使いすぎで、土が死んでいる......」

なにかにつけて耳にする言葉だが、化学肥料だけが悪者ではない。

簡単にいえば、大消費地に近い大規模な野菜産地は、国が決めた野菜を栽培していれば、さまざまな助成金が支給されたり、市場が暴落したときには、いくばくかの補給金がもらえるという制度である。

消費者も、より安定した価格で野菜が買えるようになる。

おおざっぱにいうと、コメにおける食管制度みたいなものである。

「そのために指定産地の農家は、毎年同じものを栽培しなければならないんですよ」

農業試験場の栽培指導担当者の多くは、この制度があるがために、最近、頭を悩ましている。

連作障害が深刻化してきているからだ。

聞きなれない言葉だが、現在の野菜生産、そして流通・消費を語るうえにおいて、また、ボクたち消費者が真に安全な野菜を手に入れるために、多少なりとも知っておかなければならないのが、この野菜指定産地制度だ。

昭和四一年に制定された野菜生産出荷安定法にもとついて、その主要な野菜についての当該生産地域における生産及び当該消費地域に対する出荷の安定等を図り、もって野菜農業の健全な発展と国民消費生活の安定に資することを目的とする〉 と、同法の第一条にうたわれている。

流通機構が、こまかいことを必要以上に要求しなくなれば、また消費者がそれに気がつけば、もっと安全で、安い価格の野菜が街にあふれるようになるのだ。

大消費地で買う三本で一〇〇円前後のニンジンなんて、狂気の沙汰に思えてくる。

昨今、高級野菜なるものがもてはやされているが、あれは、こうした馬鹿げた規格で、ただひたすら上位にランクされただけのことでしかない。

"高級"というとなにか、いい野菜、おいしい野菜をイメージしがちだが、野菜自体の安全性とはなんのかかわりもないものなのだ。

春先、千葉の九十九里海岸に近い東金市、八街町あたりの国道沿いの八百屋さんでは、都会で使うゴミ袋ほどのサイズの透明ビニール袋に、優に一〇キロ以上つまったニンジンなどの新鮮な野菜が、一袋(一〇〇本ぐらい入っている)二〇〇円くらいで売られている。

バカ安である。

農家にしてみれば、どうせ安く買い叩かれてしまう市場などに出すよりは、買っていく人の顔がわかるこうした販売方法のほうがまだまし、という気持なのかもしれない。

こまかいことをいえば、「野菜標準規格」からはずれたものなのだろうけれど、味もよく、鮮度も高いので、ボクは、一〇袋くらい買いこんできて、日ごろ不義理をしている親戚などに、宅配便で送っている。

中南先生は、当然のことのように、こう話しつづける。

「前年の八一年の摂取量をもとに、生涯摂りつづけることによって生じる発ガンの、危険度確率が計算されています」

それをもとに、中南先生の手で、一年間でいったい何人の日本人が有機塩素系化合物によってガンになるか、という計算が行なわれている。

基礎になる考え方によって大幅に値は違ってくるが、もっとも多人数が影響を受ける総DDTについては、最小値で0.2人。

国立衛生試験所の副所長、内山充博士の『環境汚染物質摂取量推計と食品衛生』という研究発表がある。

その中に、日本人一人が一日に体内に摂りこむ汚染物質の量が示されているのだ。

単位は100万分の1グラム、すなわちマイクログラムである。

「1日の摂取量は低いのですが、それでも発ガンの危険がまったくないわけじゃありません」

昭和四十年代にすでに使用が禁止されているBHCだの、DDTだの、PCBといった危険物質が、いまだに土の中に残留している。

それが野菜などによって日々これ体内に入ってきているというのだ。